長崎県佐世保市にあるハウステンボスでの統合型リゾート開発に関して、長崎県は8月30日にCasinos Austria International Japan(以下、CAIJ)と基本協定を締結した。しかし、今回のプロセスについては控えめに言っても物議を醸しており、CAIJのライバルであった2者は今回の決定について異議を唱えている。
今週月曜から金曜にかけて予定している5部構成の特別レポートでは、カジノオーストリアについて詳しく見ていき、また長崎初の統合型リゾート開発の今後の道のりで何が起こりうるかの考察を行う。
2021年9月13日(月) パート1:概要と背景
2021年9月14日(火) パート2:IR運営能力
2021年9月15日(水) パート3:財務能力
2021年9月16日(木) パート4: 日本の期待に応える
2021年9月17日(金) パート5:結論及び挑戦
パート5部:結論及び挑戦
今週は、CAIJが日本でIRを展開する上で、将来何が起こるかを考察するのに興味深い週であった。今日は、このシリーズのパート1〜4を要約し、結論を導き、課題の概要を説明し、IRが最終的にその扉を開けるために、今後長崎で必ず起きる事柄についてのロードマップを示す。
1.「区域整備計画」の策定
CAIJは、長崎県と協力して「区域整備計画」を策定しなければならず、これを2022年4月28日までに日本の国土交通省に提出する必要がある。この共同作業は双方にとって挑戦であり、善意と相互の信頼と理解を必要とし、とりわけ日本とヨーロッパの間に非常に大きな文化的および商慣行の違いをもたらすことになるだろう。
- アジアンスタイルの主要IR事業者と同様の考察を開始
カジノオーストリアは、何十年もの間ヨーロッパスタイルの小さなクラブカジノを運営してきた。その経験は彼らのDNAに宿っている。しかし、彼らは完全に窓の外に出て、物事を大きく考え始めなければならない。即ち、何千ものホテルの客室や何百台ものゲーミングテーブル、何千台ものスロットマシン、たくさんの飲食店、1万人の従業員や数十億ドルの予算などをすべて1つの施設で対処する方法と考えるということだ。これには考え方を変え、幅広いスキルと経験を持つ上級管理職をヨーロッパの反対側にある日本で採用する必要があるだろう。
- 財務課題の早期解決
15日(水)に指摘したように、ここでの資金調達の問題は巨大である。カジノオーストリアは、上級管理職の間である程度の資金調達能力を持っているが、同社はもっと多くの資金が必要になるだろう。また、日本の銀行との取引経験のある人材や、マカオ、シンガポール、ラスベガスで数十億ドルを調達したことのある人材を迅速に雇用する必要があるだろう。
- 人の流れの把握
CAIJは、ハウステンボス内に1日2万人以上(およびそのお金)を効率的に出入りさせる方法を模索する必要がある。長崎はこの数の10分の1の訪問客さえ経験したことがない。この地域の交通機関の問題を考えると、これは簡単な話ではなく、死活問題となる可能性がある。
- MICE
CAIJは、MICEの機能を備えていないことを認める必要があり、アジアのIR経験を持つMICE専門家のために、国際上何らかの形でそれら施設を借りる必要がある。日本のMICE市場は非常に未発達であり、現地で専門家を見つけることが出来ない。繰り返しとなるが、CAIJはこれに早期に対応する必要がある。なぜなら、成功できる唯一の方法は、後からではなく開発および建設段階で、MICE戦略の一部を統合することにあるからだ。
- ホスピタリティ
CAIJはまた、1,000室を超えるホテルを運営するためのノウハウがないことを認めなければならない。しかし、ゲーミングの経験がない他の会社に責任を追わせることも効果的ではない。ここでの唯一の方法は、困難に敢然と立ち向かい、マカオ、シンガポール、マニラ、またはラスベガスで働いたことのある上級管理職を雇い、できるだけ早くチームを構築することであり、そして、実際に彼らの話を聞くことである。
- 日本式CSR
ヨーロッパからCSRプログラムをコピーして貼り付けるだけでは、日本のCSRは機能しない。ここで注目すべきは、マカオのコンセッション保有者6社である。彼らは特に現在、マカオの再ライセンスが間近に迫っていることもあり、自身のCSRプログラムに非常に重点的に取り組んでいる。これを成功させるには、3つの部分からなる協調的な取り組みが必要である。まず第1に、CAIJはヨーロッパでの経験を最大限に活用し、第2にマカオの優れたCSRプログラムに触れて学び、最後にすべてを日本向け(特に長崎向け)にカスタマイズする必要があるだろう。それには地元で日本人のCSR専門家を雇用し、日本式のCSRを遂行していくために同社の運用DNAを変えなければならない。
- 清廉潔白、且つコンプライアンスの厳守
CAIJはオーストリアで長い間、独占的な運営しており、それがひとりよがりに陥ることは誰もがわかっている。以下のことを考慮すれば、同社は清廉潔白であるべきだけではなく、明白にそのように見える必要がある。
(1)500.com汚職事件のような日本ですでに起きたスキャンダル
(2)不当行為疑惑の申し立てによる長崎RFPプロセスへの不安、(3)IRに対する日本人の大幅な躊躇、(4)カジノオーストリア自身の実績に関するインターネット上の疑念、そして最後に(5)「世界で最も潔白なIR産業」でありたいという日本の飽くなき願望。オーストラリアのクラウン・リゾーツを見て、何がうまくいかないかを理解できるであろう。
以上、長崎で成功するための8つのロードマップを解説した。これらすべてがどのような道を辿るのか見守ることにしよう。
この5部構成のシリーズについてのご意見ご感想がございましたら、是非お聞かせください。