長崎県佐世保市にあるハウステンボス隣接地での統合型リゾート誘致に関して、長崎県は8月30日にCasinos Austria International Japan(以下、CAIJ)と基本協定を締結した。しかし、今回のプロセスについては控えめに言っても物議を醸しており、CAIJのライバルであった2者は今回の決定について異議を唱えている。
今週月曜から金曜にかけて予定している特別レポートでは、カジノオーストリアについて詳しく見ていき、また今後の長崎初の統合型リゾート開発への道のりについて考察する。
2021年9月13日(月) パート1: 概要と背景
2021年9月14日(火) パート2: IR運営能力
2021年9月15日(水) パート3: 財務能力
2021年9月16日(木) パート4: 日本の期待に応える
2021年9月17日(金) パート5: 結論及び挑戦
パート 4: 日本の期待に応える
今日は、日本のIR業界を取り巻く主観的な問題と、長崎県と日本政府が同県のIRに求めるものをCAIJが実現するためにはどうすればいいのかを考えていく。
同県はIRの年間予定入場者数を840万人と公表している。これを実現するには、九州や西日本を訪れるほとんどの旅行客が必ず訪れるような素晴らしいIRでなくてはならない。2019年に同県内の宿泊施設に泊まった者の総数は58万人に過ぎないため、同県は10倍以上の増加を目指しているが、これは同県を訪れる者全員が佐世保まで足を運んでIRを訪れることを前提としている。同県は日本の中でも遠いとされており、日帰りで行ける場所ではない。さらに、新幹線がないこと、最寄りの主要空港(福岡)から車で2時間近くかかることを考えると、CAIJは来場者数840万人の達成に非常に大きな課題を抱えていると言える。
次の課題はMICEの提供に関して。同県は国内外から集客するために、世界クラスで利用しやすい競争力のある会議施設を規定している。つまり、最先端のICT技術を常に導入する唯一無二の会場・展示場などのことだ。これには、6,000席の国際会議場と20,000平方メートルの展示場の面積が含まれる。
これは、5,000席が用意されたベネチアン・マカオの大宴会場の3倍以上の広さに相当する。ちなみにカジノオーストリアは、ヨーロッパの全施設を合わせて約2,000平方メートルのイベントスペースを管理している。長崎へ行きづらいことや、アジアの他国に比べて日本の物価が高いことを考えると、このようなMICEスペースの確保は非常に難しいだろう。そして、特に大規模なMICEの経験がない企業にとっては、このようなMICEのサービス提供も難しいはずだ。
CAIJと同県は、ホテルの運営には国内外で高品質なホテルを展開する外資系ホテルブランドを選ぶと発表している。多くのIR経営者が知っているように、ゲーミングやリゾートの運営とは別の会社がホテルを運営する場合、通常は問題が発生する。アジアで成功しているIRの多くは、自社でホテルを運営する一方、国際的な接客企業のブランド名をライセンス供与されているに過ぎないのだ。
同県と国は、IRが地域の成長と活性化、地元企業との協力、地元調達、地域経済への貢献など、強力なCSR貢献をする必要性を強調している。カジノオーストリアにはヨーロッパで確立されたCSRプログラムがあるが、皮肉なことにRFPのライバルであるオシドリやNIKIとは異なり、同県の地域社会との重要な関わりを我々はまだ見たことがない。同社はRFPの期間中、同県に専用のオフィスすら設けていなかったのだ。これには早急に対応する必要がある。
ギャンブル依存症、問題のあるギャンブル対策、そして世界一クリーンで規制されたIRを持つことは、日本でも繰り返し強調されてきた。カジノオーストリアは、オーストリアの政府系ファンドが3分の1を所有しているものの、このファンドによって長年にわたり、コンプライアンス上の問題や論争が起きなかったわけではない。ネットで検索してみると、同社がギャンブル依存症の問題など様々な疑惑で裁判になったケースがいくつか出てくる。特筆すべき最近の例はいわゆるオーストリアのカジノ事件。本稿の範囲を超えているが、興味のある方は検索していただきたい。同社は日本の規制当局に対し、この種の問題が過去のことであると説得する必要がある。
明日のパート5では、5回にわたる連載の締めくくりとして、長崎県におけるCAIJの今後の課題と進むべき道をまとめることにする。