長崎県佐世保市にあるハウステンボス隣接地での統合型リゾート誘致に関して、長崎県は8月30日にCasinos Austria International Japan(以下、CAIJ)と基本協定を締結した。しかし、今回のプロセスについては控えめに言っても物議を醸しており、CAIJのライバルであった2者は今回の決定について異議を唱えている。
今週月曜から金曜にかけて予定している特別レポートでは、カジノオーストリアについて詳しく見ていき、また今後の長崎初の統合型リゾート開発への道のりについて考察する。
2021年9月13日(月) パート1: 概要と背景
2021年9月14日(火) パート2: IR運営能力
2021年9月15日(水) パート3: 財務能力
2021年9月16日(木) パート4: 日本の期待に応える
2021年9月17日(金) パート5: 結論及び挑戦
パート2: IR運営能力
今日は、長崎で実現されるであろうIRについてと、カジノオーストリアのIR運営能力について見ていく。
CAIJのライバルであるOshidori International Development合同会社(以下、オシドリ)とNIKI Chyau Fwu(Parkview)Group(以下、NIKI)は、各社が提案するプロジェクトのイメージ図を公開。オシドリのプロジェクト、「大村湾の帆」の画像が10枚、NIKIの提案の画像が8枚である。どちらも、過去20年間にマカオのコタイ、マニラのエンターテインメントシティ、そしてシンガポールで誕生した20ほどの現代的なIRに匹敵する、アジアで待望の数千億円規模の本格的なプロジェクトを彷彿させる内容であった。
一方、CAIJが提供するイメージ図は2枚しかない。下の画像は同社のウェブサイトに投稿されたプレスリリースに掲載されたもので、数時間後に急遽取り下げられた。しかし、このイメージ図は短期間のうちに多くのメディア(IAGを含む)にコピーされ、現在では業界メディアのウェブサイトで広く公開されている。また、8月30日に長崎県がカジノオーストリアとの契約締結を発表した際にも公開された。
下は、長崎県が8月30日の発表の際に公開した2枚目のイメージ図である。
公表されているのはこれら2枚のイメージ図のみ。 IAGは数週間前に、オシドリやNIKIのようにイメージ図をさらに公開しないのかとCAIJに尋ねたが、基本協定を締結するまでは公開しないとの回答であった。8日ほど前に基本協定が締結されたが、IAGとして数度要依頼したが、同社は未だイメージ図や情報を公開していない。
CAIJにはアジアで見られる数千億円規模の現代的なIRを運営する実績と能力があるのだろうか? 長崎県が8月30日に発表した3,500億円という投資額を考察してみよう。この金額は、これまでにアジアで建設された最も高額なIRであるウィン・マカオやマリーナベイ・サンズに1,000億円ほど及ばない「だけ」である。また、巨大なヴェネチアン・マカオの投資額よりも約1,000億円多い。これらのIRには数千の客室、数百台のゲーミングテーブル、数千台のスロットマシン、100軒以上の飲食店、最大で数百軒の小売店がある。その規模たるや、まさに驚異的である。
一方、IAGの7月号の特集で紹介したように、カジノオーストリアがこれまでに運営したIRに最も近いのはオーストラリアのケアンズにあるリーフ・カジノで、約40台のテーブル、500台のスロットマシン、127室のホテルがある。同社のヨーロッパにある施設のほとんどにはホテルが併設されておらず、同社がIAGに提供した独自の数字によると、世界中のゲーミング施設では平均してゲーミングテーブルが10台、スロットマシンが147台しかない。
誤解のないように話すと、カジノオーストリアは1960年代に設立された歴史のある、経験豊富なカジノ会社だ。しかし、それはヨーロッパで非常に小規模なクラブを運営してきた歴史であり、マカオ、フィリピン、シンガポール、ラスベガスなどに見られる現代的なIRとは別物である。
2016年に発表されたPwCのレポートでは、「ヨーロッパは統合型リゾートカジノの準備ができているか」と題して、ヨーロッパにおけるIRの総数を「ゼロ」とコミカルに報告している。これは2016年から何も変わっていない。たしかにバーミンガムにはリゾートワールドがあるものの、そのホテルは200室にも満たないのだ。また、メルコはキプロスにIRを建設しているが、まだオープンしていない。2021年現在でヨーロッパにはまだIRがなく、カジノオーストリアは確かに何十年にもわたってヨーロッパ式の小さなクラブカジノを数多く運営してきたが、同社のIRの経験はゼロなのだ。
彼らには早く学ぶ必要がある。
明日の第3部では、長崎のIRを建設するのに必要な財務能力について考える。