長崎県佐世保市にあるハウステンボスでの統合型リゾート開発に関して、長崎県は8月30日にCasinos Austria International Japan(以下、CAIJ)と基本協定を締結した。しかし、今回のプロセスについては控えめに言っても物議を醸しており、CAIJのライバルであった2者は今回の決定について異議を唱えている。
今週月曜から金曜にかけて予定している5部構成の特別レポートでは、カジノオーストリアについて詳しく見ていき、また長崎初の統合型リゾート開発の今後の道のりで何が起こりうるかの考察を行う。
2021年9月13日(月) パート1:概要と背景
2021年9月14日(火) パート2:IR運営能力
2021年9月15日(水) パート3:財務能力
2021年9月16日(木) パート4: 日本の期待に応える
2021年9月17日(金) パート5:結論及び挑戦
パート3:財務能力
今日は、Casinos Austria International(以下、CAI)に関連する財務上の情報をいくつか見て、それらを長崎で予想される数字と比較してみる。
長崎県は、IRへの総投資額を3,500億円(32億米ドル)と発表した。その莫大な金額がどこから来ているのかを考える前に、CAIとその親会社であるCasinos Austria AGに関する幾つかの主要な指標を見てみよう。公平を期すために、新型コロナによる世界的大流行の影響を考慮し、新型コロナの影響を受けなかった2019年の財務データを考察する。いくつかの興味深い主要な指標は、以下の通り。
ゲーミング粗収益 (2019) | 米ドル
(単位:百万)
|
日本円
(単位:十億)
|
カジノオーストリア インターナショナル |
215 | 35 |
カジノオーストリア | 382 | 42.0 |
オーストリアン ロッタリーズ | 985 | 108.4 |
合計 | 1,582 | 174.1 |
営業利益(2019) | 米ドル
(単位:百万)
|
日本円
(単位:十億)
|
カジノオーストリア インターナショナル |
27 | 3.0 |
カジノオーストリア | 9 | 1.0 |
オーストリアン ロッタリーズ | 92 | 10.1 |
合計 | 128 | 14.1 |
まず、最初に明記すべきことは、親会社とグループ全体を一括にして考えれば、カジノオーストリアはカジノ会社というよりも宝くじ会社であり、GGRの約62%がオーストリアの宝くじ事業で占めている。
次に注目すべき洞察は、CAI自体が、世界レベルのIR事業者と比較すると非常に小さな会社であるということだ。2019年の同社の営業利益はわずか2,700万ドル(約29.6億円)で、通常、年間数億米ドル(新型コロナの影響を受けていない)の純利益が見込まれているアジア地域の一般的なIR事業者よりもはるかに小さい。
では、その3,500億円(32億米ドル)はどこから来るのだろうか。
ほとんどのIRのように、債務と資本が混合するということに間違いないだろう。しかし、IRライセンス更新の有効期間が3年と5年であることを考えると、日本でまたは日本のために債務を請け負うのは容易ではない。実際、ほとんどのコメンテーターは、50%の負債と50%のエクイティの組み合わせが最も可能性ある資金調達の結果であると示唆している。
また、日本のIRは、日本の多くの主要企業と同様に、コンソーシアムの取り決めの下で運営されると長い間想定されていた。結果的にエクイティの資金源となるは、CAIJのコンソーシアムパートナーということだ。しかし、CAIJはコンソーシアムのかなり大きな割合のシェアを求めることが少なくとも予想されている。(そうでない場合、なぜ彼らの主要なコンソーシアムパートナーがまだ発表されていないのに、それをリードしているのか)そしてその場合、彼らは資金の付随するシェアを切り詰めなければならないかもしれない。
その3,500億円(32億米ドル)の半分のまた半分でさえも、非常に大まかな推測ではあるが875億円(8億米ドル)に相当し、CAIのような企業にとっては非常に大きな金額となる。
では、それをカジノオーストリアグループ全体の現在の純資産と比較するとどうだろうか?CAIだけでなく、親会社を含むグループ全体との比較である。正直なところ、あまりよくない。2019年12月31日付けの財務勘定では、連結グループ全体(Casinos Austria AG、及び宝くじ事業を含む)の親会社の株主に帰属する自己資本(つまり、資産から負債を差し引いたもの)はわずか4億900万ユーロであった。米ドル表記では4億8,600万米ドル、日本円表記では530億円となる。
年間収益がその金額の5%未満である企業にとって、数億米ドルの中から概算の金額を理解するのは無謀な話しであると想像がつくだろう。まして、過去50年以上にわたり親会社と共にその額の約半分を蓄えてきた企業にとっては、それほどではない。
明日のパート4では、長崎県と日本政府の日本IRに対する期待に応えるために、CAIJが何に焦点を当てるべきかについて考える。