カジノ事業者がウィンレートの背後にある数学をより有効に活用して収益性を向上させる方法について、Differen-tial Labsのマネージングディレクターを務めるクレイトン・ペイスターが解説する。
カジノのウィンレート( 数学的にハウス側の収益となるレート)はゲーム界のダークマター(未知のもの)だ。宇宙の現在のモデルは、観測できないダークマターが存在すると仮定した場合にのみ機能する。同様に、カジノ業界のビジネスモデルは、ウィンレートが存在する場合にのみ機能する。少なくとも歴史的には、電子ゲームのウィンレートのように、不正確ではあるものの、明示的に観測できるウィンレート、テーブルホールドのように間接的に観測できるウィンレ ート、ターンオバーでのテーブルウィンレートのように不明なウィンレートがある。
ベットトラッキング、より詳細な電子ゲーム動作の記録、およびiGamingのような新しいデータソースの出現により、我々は閉鎖的なウィンレートの世界をより深く理解しつつある。これらの理解とともに、ウィンレートやその延長線上の収益に影響を与える行動的および機械的要因を抽出することができる。
この記事では、我々のプロとしてのキ ャリアを左右するウィンレートについて説明し、これらのレートに影響を与える要因を概説し、ウィンレートの最適化における分析の役割について説明する。この記事全体を通して、事業者が拡散的にしか管理できない機械的ドライバーと、事業者が実質的な影響力を発揮する行動的ドライバーを区別している。
機械的ドライバーVS行動的ドライバー
オッズとゲームのルールによって決定されるプレイヤーへの還元率(RTP)は、あらゆるウィンレートを支える基本的構造だ。経営陣は、フロアのセットア ップとミックスでのみRTPに影響を与えることができる。 事業者は狭義の範囲外に影響を与えることができないため、我々は、RTPが本質的に機械的であると考えている。フリープレイを無視すると、事業者のターンオーバー・ウィンレートは、特定の市場内では理論的に似通 ったものであるはずだ。そして、ターンオ ーバー・ウィンレートは類似しているべきであり、論理的にこれはよく似たホールド率に変換されるはずであるが、そうではなく、一部の施設には一貫したホ ールド率の割増があることがわかっている。会計上の違いを調整すると、このホールド率の割増は行動の違いによって説明できる。
ウィンレートの分解
古典的な確率論は、カジノゲームや射倖ゲームに基づいている。業界はこの数学を利用して、ホールド率の変動から個々のプレイヤーの運までのすべてを理解してきた。残念ながら、古典的な確率論は、個々のハンドに勝つ確率しか教えてくれない。我々の見解では、これら同じ方法を他のウィンレートに適用することは不適切だ。
統計の世界では、古典的な確率論は「正常」なデータを説明する。普通の数学にフラグがあったならば、ベルカーブはその上にのるだろう。与えられたハンドに勝つか負けるかの確率に根ざしたカジノ数学は、ウィンレートが対称的なベルカーブに沿うことを前提としている。ひいては、平均は中央値に等しくなければならない。これは、ハンドで勝つ確率には当てはまるが、ターンオーバーでのウィンレートには当てはまらず、ホ ールド率については全く当てはまらない。ベットトラッキングのおかげで、この現象を直接観察することができる。
まず、プレイヤーが勝ったハンドの割合を取る。図表1では、中央値と平均値はほぼ同じだ。アナリストとして、私は、より多くの数字を見ていくことで平均値と中央値は合流していくと断言できる。
図表1から、平均の上と下の両方でほぼ等しい確率があることがわかる。上記の結果は、古典的なカジノ数学と一致している。
ターンオーバーでのウィンレート、またはハウス/プレイヤーが勝った賭けの割合を考えた時に物事は分岐し始める。ターンオーバーでのウィンレートは依然としてベルカ ーブのように見えるが、片側に偏っている。 たとえば、このデータセットでは、最も典型的なプレイヤーはすべての賭けの2%以上を失ったが、ほんの一握りのプレイヤーが大きく勝ち、平均ウィンレートは約0.8%へと希釈された(このデータセットはバイアスのかかったブラックジャック)。
この現象は世界中のデータで見られており、典型的なプレイヤーはウィンレ ートが示すよりもはるかに大きく負ける可能性が高く、それは、期待していたよりも大きく勝つ少数のプレイヤーによってバランスが取られている。私たちは最近、特定の四半期に1つのジャンケットルームから1億香港ドルを得ると予想していたが、代わりに2億香港ドルを失ったマカオの大手オペレーターと共に働いた。3億香港ドルの振れ幅だ。伝統的なカジノ数学は、この3億香港ドルもの振幅は100年に1度の事象であるはずだとしていた。しかしながら、上記の偏りでもって伝統的なカジノ数学を更新すると、この3億香港ドルの振幅のリスクはおよそ5年に1度発生するはずだと示している! この的確な描写は、外れ値の重要性、そして外れ値がどのように平均および中央値のウィンレートを変化させるかを際立たせている。
外れ値の重要性
通常平均して、勝者の上位5%は、負けたプレイヤーの上位5%の約1倍から2倍多く勝つ。この非対称性は、図表3に示されている。
一般的に、外れ値こそが、大半の施設がゲーム還元率によって示されたウィンレートを達成する原因となっている。ホールド分布を見直してみることで、この概念がさらに強く見えてくる。
ホールド率
日々のプレイヤーレベルでは、図表5で説明されている分布と同様のパターンが世界中で見られている。具体的には、平均ホールド率はどんなテーブルマネージャーも認識するであろう古い割合、22%と一致していることがわかる。しかし
- 全プレイヤーの45%が資金の大半を失い、4人中1人は全資金を使い果たす
- その結果、典型的なプレイヤーのホールド率(49%)と集団の平均(22%)の間には、大きな隔たりがある
- 左側に非常に長く伸びており、上部にいるプレイヤーには
- ほぼ限界がないことを意味している
ハウスの上限ははるかに制限されている(顧客の資金によって制限)。
行動とゲームのオッズの組み合わせによってプレイヤーの75%がハウスに負けるため、この非対称性はそのリスクの価値がある。上記のパターンが世界中で一貫している一方で、高頻度の施設では極端な勝ち負けがそれほど劇的ではないことに気づいた。
行動の意味合い
業界の従来の知識は、ホールドはランダムであり、行動の産物ではないというものだ。ウィンレートとホールドを分析的に観察する中で、特にホールドが選択であることがわかった。具体的に、事業者は3つの基本的な決定ポイントを検討することをお勧めする。
1つ目:適切なプレイヤーに焦点を当てる
ホールド率は、マーケティングまたは運営上の取り組みに組み込むことができる一貫したパターンにおいて、セグメント間で大幅に異なることがわかった。少数だが重要な顧客セグメントが目標指向であることを突き止めた。
これらのプレイヤーは、マカオのマスフロアでよく見られる。この種の顧客は通常、資金を倍にしたいと考えており、この目標を達成するために資金を使い果たしても構わないと考えている。よりホールドに対して弾性のある顧客に焦点を当てるためにマーケティングセグメンテーションを一新することには大きく期待できる。
同様に、一部のプレイヤーはより多くのプロポジションベットを行い熱心にトレンドを追うが、一部のプレイヤーは厳格に資金管理を行う。ベットトラッキングにより、事業者はプレイパターンによ ってプレイヤーを区別できる。世界中の事業者と協力する中で、想定される理論上のウィンレートへの依存が事業者のパフォーマンスに重くのしかかることがわかった。ボラティリティ、想定される理論上のウィンレートおよびショートプレイはすべて、プレイヤーの真の価値を隠してしまう。ベットトラッキングにより、オペレーターは初日から価値を適切に見出すことができる。
適切なRTPの設定
コンサルタント会社、グローバル・マ ーケット・アドバイザーズのスティーブ・ギャラウェイ氏は、低ホールド戦略が他のほぼ全てに勝るとクライアントにアドバイスしていることで有名だ。普遍的に真実であるわけではないが、ギャラウ ェイ氏の結論は正しい。低いRTPは、顧客の時間に制約がある場合(マカオのツアーグループセグメントを考えてほしい)、または稼働率が高い場合にのみ有益である可能性が高い。
サービス
マカオで関わった施設で我々は、ホールド率の最大のドライバーが顧客のネットプロモータースコアであることを発見した。ミニマム/デノミミックスとゲ ームスピードがすべて、ホールドとプラスの相関関係にあり、最適化にとっての重要要素である一方で、ゲスト体験がホールドの基礎にある。
次の例を見てほしい。顧客が新しくオープンした施設を訪れ、いつもの額をバイインし、プレイし始める。が、ドリンクを手に入れることができず、カジノが面白くなく、ディーラーが魅力的でない。すると数ハンドをプレイして立ち去る。同じ顧客が1年後に戻ってきて、同じカジノを訪れいつもの額をバイインする。
ただし、今回はサービスが効率的で、カジノが賑やかで、ディーラーが魅力的。彼女はいくつものシューをプレイして、フロア全体のトレンドを探る。
この例では、プレイヤーは2回目の訪問で同じバイインに対してはるかに多くのハンドをプレイし、より高いホールド率が実現されている。特に新しい施設では通常、ホールド率の上昇は、取扱高の構造上の増加に先行することがわか った。
フリープレイがターンオーバ ーを混乱させる
フリープレイの影響については、多くの競合する理論がある。複数の施設のマーケティングプログラムを見直したことで、明確なテーマが浮かび上がった。プレイヤーの1日あたりの基本支出の33%を超えるフリープレイを発行すると、リターンの減少が起こる。この33%というライン超えてフリープレイを発行すると、実際には個々のバイインが減少し、ターンオーバーが混乱する。故にホールド率とウィンレートの両方が歪んでしまう。 もちろん、この概念はすべての顧客に普遍的に当てはまるわけではないが、33%はプレイヤ ーレベルの弾力性セグメンテーションがない場合の良い出発点となる。
ミニマムベットと平均ベットの非対称性
資金の割合としての平均ベットがホールド率に劇的な影響を与えることがわかった。資金の割合としての平均ベットが増加すると、ホールド率も上昇するが、相関してハンド数は減少する。これは、事業者がテーブルのミニマムベットとデノミミックスの設定に注意を払う必要があることを意味する。