日本版IR事業者の候補者たちが日本の文化的魅力をデザイン案に組み込む意図があることを大々的に謳う中で、そのような大規模開発の中に日本のモダンアートシーンをどのように融合させることができるかを体現しているのが、現地企業のチームラボだ。
2001年の設立以来、デジタルアート作品を作り続けてきたチ ームラボ。創った作品をギャラリーを通じてコレクターに販売するアート本流のビジネスを行ないながら、所有するのが難しい空間作品も多いことから、美術館での展示や興行などの活動も世界を舞台に展開している。
最近ではシンガポールでの常設展示を実現し、アメリカにおける大規模な展示会も成功させている。国際的なアート活動を続ける中で「 東京でも何かしら大きな常設展示をやりたい」という思いが生まれた。その結果が森ビルデジタルアートミュージアム:エプソン チームラボ ボ ーダレス。
世界中から人々を呼び込むことができるまったく新しい“東京の磁場”として大いなるうねりを感じさせる「チームラボボーダレス」。さまよい、探索し、発見する境界のない1つの世界である。
この世界に類を見ないミュージアムを創り上げたプロジェクトチームを代表して、チームラボキッズ代表の松本明耐氏は「空間のサイズの面でも、提供する体験の面でも、まったく手探りのまま進んでいく感じでした。
1万㎡という巨大な場所に作品を創る経験は今までありませんでしたし、それぞれの作品をボーダレスに結びつけるという試みもはじめてでした。これまでは1つ1つ単体で仕上げた作品がそれぞれの空間にあるという形の展示でしたが、”チームラボ ボーダレス”は新しい作品も含めて作品同士を境界なくつなげることで、展示場全体で1つの体験を打ち出すという発想で創られています」と語った。
すでにユニークな日本文化とアートの要素をIRデザインに組み込みたいという希望を表明している未来のIR事業者達にとって、このコンセプトは魅力的なものとして現れた。同様に、IRはチームラボがそのように広大なスペースをさらにどう創り上げていくのかを試す潜在的なチャンスとなる。
「1万㎡で何をしようかなぁ、チームラボ内でつぶやくところから始まって、なんとなく動き始めたのが3年ほど前。そこから少しずつ具体化していったというのが流れです。とにかくまず1万㎡ありきで空間を探していました。1万㎡の空間で何か作品を展示したいということから始まって、それを実現するにはどれだけのコストが必要で、どれだけの作品ができるのだろうとチーム内で議論を続けていたわけです」と松本氏は述べた。
チームラボ ボーダレスを実現するには、プロジェクトマネジメントを推進する株式会社山下PMCの土橋太一氏(事業創造推進本部第四部部長)に依頼した。
「まず1万㎡だけではなく、面積の1万㎡に加えて、天井の高さも10mとか15mの空間が必要ということありきで場所を探し、お台場にこの場所が見つかった。そしてそれが結果として、完全に日本のローカルアートシーン独自のものとなった」と土橋氏は語る。
「たとえば『バルセロナに行けばピカソがある』といった形が日本ではあまり見られません。その意味から言っても、チームラボのアート展示は日本的なものを感じさせる面が強く、東京において今までなかった役割を果たしていくことが期待されます。東京に訪れた海外の人々に、日本を印象づける作品として受け入れられると思います」と土橋氏は続けた。
「チームラボボーダレス」がオープン5カ月で来場者数100万人に達したことについて話す土橋氏。「これまでのチームラボのアート展示を通じて、もしかしたら日本以上に海外からの評価の方が高くなっているのかもしれません。もともと日本は欧米に比べて、アートの社会的な価値が低かったと感じます。そうした背景において美術館的な施設を民間事業として展開するにあたっては、今回はじめてアーティストであるチームラボ自身も出資をし、ある程度のリスクを取りながら運営しています。
その意味では、チームラボが思い描いたイメージをリアルな形で実現して、民間事業として新しい美術館を人々に提供できているという事実は、アートをめぐる日本の価値観を劇的に変えられる可能性があると感じます。日本、東京に観光客を呼ぼうにも、こうした魅力的な場所がなければまったく面白くありませんからね」
HOTERESの許可を得て掲載