人目を避けるようにひっそりと建てられたかのような横浜の山下埠頭にある24棟のありきたりな倉庫は、ほんの数年前に日本でIR法が制定されたときに思い描いていた革新的なリゾート地とはかけ離れている。
先週、横浜市の新市長がIR誘致撤回を宣言したため、これらの倉庫は今のところ取り壊される予定はないが、全く違ったものになっていたかもしれない。
このニュースを受けてInside Asian Gamingの取材に応じたメルコリゾーツ&エンターテインメントのEVP、チーフ・クリエイティブおよびブランド・オフィサーのフレデリック・ウィンクラー氏は、メルコのIRコンセプトがいかに横浜を世界に知らしめるべく設計されたかを説明した。そこには日本への新しいゲートウェイとなりつつも、横浜を活性化させる象徴的なウォーターフロントのランドマークの建設などが含まれていた。
「横浜のウォーターフロントは公共の場ではない。我々のデザインでまずやりたかったのは、ウォーターフロントを公共の場に戻し、人々が楽しんで探索できるような空間と雰囲気を作ることだ」と同氏は語る。
「地元の文化を尊重しつつ、ランドマークとなるようにした。ショー、ヨーロッパで最も象徴的な美術館と提携したミュージアム、アーティストと共同開発したウォーターパーク、大坂なおみ氏と共同開発したスポーツグラウンド、アドベンチャーパーク、映画館、アリーナなど、全てのアトラクションがメルコのプレミアム品質で作られている。 ホテルは全てフォーブスの評価を受け、ミシュランのレストランを横浜で実現していただろう」。
「今の横浜市にはないレベルと規模のホスピタリティを提供できたはずだ」。
日本の建築家と世界の建築専門家の技術を合わせて活用したメルコの「未来都市」の横浜IRのデザインは、水と自然に敬意を表している。
一番高い中央のタワーは横浜の花をイメージしており、その周りには波紋をイメージした曲線の建物が並ぶ。
地上階では、隣接する山下公園の緑地を桟橋の全長に渡って拡張し、公共スペースを大幅に増やして、都市と直接一体化することになっていた。開放感を保つために、IRの中央を斜めに貫く大通りを計画し、一方には横浜ベイブリッジ、もう一方には横浜マリンタワーという2つの横浜のランドマークを直接見渡せるようにしてあった。
同社のIRの特徴の一つは、IRの入口に設置されたウェルカムハブ。観光客の日本への新たなゲートウェイとして想定していた。
同氏は、「IR事業への公募では、IRが日本の観光中心地になることを重視していた」と語る。「ウェルカムハブには、たくさんのインタラクティブな乗り物やアクティビティ、食べ物、そして日本とその地域に関する情報が用意されていた。来訪者はどこで何ができるのかを知ることができ、旅行代理店がそこを拠点にしてすべてを実現することになっていた」。
日本のIR構想のもう一つの重要な要素である充実したMICE施設は、国際的な期待に応えられるように設計されており、季節に合わせてコンサートやスポーツイベントができる大規模なアリーナに変更することも可能な「日本に存在しないレベルのMICE」と同氏は説明する。
また、環境にも配慮し、屋根にはソーラーパネルを設置。四方を植物で囲い、全長500メートル、全高40メートルの世界最大のバーティカルガーデン(垂直型ガーデン)を設けた。この庭園の使用は地元の農家に譲り、生産されたハーブや野菜はIRのレストランで使用されることになっていた。
世界的な高級ブランドとすでに話を進めていたリテールスペースについて、同氏は「第二の銀座を作るようなもので、横浜にはないものだ」と表現する。
「横浜に人々を呼び込み、しばらく滞在した後、さらに国内を観光してもらえるようなレベルのホスピタリティと観光の提供を目指していた」。
同社のエバン・ウィンクラー社長は次のようにコメント。「横浜には、街のライフスタイルや文化、特徴を反映した世界最高水準のIRを提案し、世界に向けて発信していくことが有益だと常に考えてきた。卓越したデザイン、品質、職人技へのこだわり、そしてアート、デザイン、建築を融合させたIRの提案には、日本の豊かな伝統、人情、美意識が反映されていた」。
「未来を見据えたこのプロジェクトは、今後何年にもわたって、エンターテイメント、レジャー、スポーツ、MICEイベントの世界的な目的地として見られるような、新しい横浜を創造していただろう」。
横浜の当面の目標にIRはなくなったが、同社はまだ日本をあきらめてはいない。
「横浜での結果は残念だったが、ゲーミング市場としての日本の長期的な見通しを引き続き信じており、世界最高のIRの日本への誘致を引き続き検討していく」。
「当社は、高品質で多様なエンターテイメント体験を提供し、誘致される地域に意味のある変革をもたらすプレミアムなIRを運営してきた実績がある。我々が開拓したプレミアムマスのIRモデルは、レジャーやビジネスの観光で経済成長を狙う政府に検討してもらえると信じている」。