IR誘致の是非で揺れる横浜市。その天王山となる横浜市長選に全く予想していない展開が訪れた。時事ドットコムによると、自民党の小此木八郎・国家公安委員長(55)が、任期満了に伴う横浜市長選(8月8日告示、同22日投開票)に出馬する方向で調整に入ったとのことだ。市長選で争点となる、IR(カジノを含む統合型リゾート施設)誘致の是非については反対する考えを示すという。
誰もが予想だにしない展開になってきた。まずは現在の状況を簡単に説明しよう。横浜市ではIR誘致に向けRFP(事業者公募)が行われており、IR設置・運営予定事業者は既に2者にまで絞られている。そのような中、IR(特にカジノの)反対派の活動が活発化していた。8月に予定されている市長選が今後の市の方針決定における全てになると言っても過言ではない。当選する市長によってはIR誘致は即日破棄されるだろう。
市長選には今まで、いずれもカジノに反対する現職市議の太田正孝氏(75)と、動物保護団体代表理事の藤村晃子氏(48)が、IR誘致にはニュートラルな立場を表明する元内閣府副大臣の福田峰之元衆院議員(57)がそれぞれ無所属での出馬を表明していた。IR推進派で3期目の現職、林文子氏(75)は、4選目への意欲を示していると報じられているが、前々期、前期と同氏を推薦してきた自民党は、党の内規で公認や推薦を出すのは「連続3期」までと定めていることや、林氏が高齢であり健康面に不安があることなどから、同氏を支援できないとしている。
そのような状況下、IRに反対の立場をとる立憲民主党神奈川県連は15日、市長選の独自候補として、横浜市大の山中竹春教授(48)の擁立に向けた最終調整に入ったと報じられた。しかしながら、この山中氏の擁立は野党側の統一候補として反対派の満場一致で認められたとは言い難い。党内の一部議員や、反対運動をしている市民団体は難色を示し、同じくIR誘致反対の立場をとる共産党からは、「IR反対以外の政策が共闘できるものか見極めてから」と一歩間を置かれた。
そこに20日、突如として自民党の小此木八郎氏出馬の報が流れた。しかも驚くべきはIR反対の立場としてというところだ。
小此木氏は、現職の衆院議員(8期)。安倍政権時代から閣僚を務め、菅政権においても国家公安委員長、内閣府特命担当大臣(防災・海洋政策)、国土強靭化・領土問題担当大臣という要職にある。そして何よりも同氏は『カジノ管理委員会を担当する大臣』だということを強調しておきたい。
その小此木氏が、その職を辞して、そしてIRを推進する自民党とは異なる立場で市長選に出馬するというのだから関係者の間に激震が走ったのは当然だ。驚かない方がおかしい。
これでIR反対の立場からは太田正孝氏、藤村晃子氏、山中竹春氏の3名が、そして今後、小此木氏が加わる見込みだ。ニュートラルな立場からは福田峰之氏。だが、IR賛成の立場からの正式な表明はいまだ一人もいない。
IR推進派、反対派ともに統一候補を擁立できないことには票割れは確実であろう。自民党サイドがいつ、誰を統一候補として擁立するのかに注目は集まる。横浜が抱える最初で最大の関門がこの市長選。もし、市長選の結果により横浜市がIR誘致を中止することとなった場合、準備は常にできていると言われている東京がIR誘致レースに参戦する可能性も囁かれている。
横浜市長選は、国策のIR誘致の今後に多大なる影響を与える可能性が高く、絶対に目が離せない情勢だ。