九州・長崎IR予定区域であるハウステンボスの一区画。IRが整備されればハウステンボスに隣接することになるこの区画は、一体どのような場所なのであろうか。そしてIR区域としてどのように整備されていくのであろうか。
ハウステンボス(以下HTB)の歴史は波瀾万丈だ。1992年、前身のテーマパーク「オランダ村」を経て佐世保市に産声をあげる。オランダのベアトリクス王女が住む宮殿の一つ、パレス・ハウス・テン・ボス(Paleis Huis ten Bosch ※森の家の意)を再現した事から名付けられ、ヨーロッパの街並みをモチーフとして作られた。
開発面積は152haにも及び、東京ディズニーリゾート(ディズニ ーランド及びディズニーシー)の約1.5倍もの面積を誇る日本最大のテーマパークだ。
総事業費2千数百億円とも言われるHTBは、1987年に制定された総合保養地域整備法、いわゆる「リゾート法」の適用を受けている。リゾート法とは、各道府県が策定し、国の承認を受けた計画に基づき整備されるリゾート施設については、税制上の支援や政府系金融機関からの融資など優遇措置を受けられるというものだ。
長崎県でも「ナガサキ・エキゾティック・リゾート構想」として、HTBなどの開発が行われた。当時はバブル景気が背を押し、日本各地で大型リゾートが多数開発されたが、バブル崩壊後には破綻が相次いだ。
HTBもその道を辿ることとなる。1996年には380万人の来訪者がいたが、その後は奮わずついに2003年、約2,300億円の負債が解消できず会社更生法適用を申請して破綻した。その後は野村プリンシパル・ファイナンスによる更生計画案が認可され、インバウンド客をうまく取り込み、軌道に乗りかけたところに世界金融危機が到来。またもや経営危機に陥り、2010年には野村プリンシパル・ファイナンスが手を引いた。
2010年4月からは旅行大手のエイチ・アイ・エス(H.I.S.)が中心となり経営再建に乗り出し、初決算で開業以来初の営業黒字に転換した。その後も順調ではあったが、新型コロナウイルスの影響で2021年3月中間決算では2億1,800万円の損失で赤字に転落した。実に波瀾万丈である。
「花と光の感動リゾート」
現在HTBでは、「花と光の感動リゾート」をテーマに季節ごとに様々な催しが開催されている。春から夏にかけては「100万本のチューリップ祭」、アジア最大級のバラに街中が包まれる「バラ祭」、西日本最大級の打上げ数を誇る「九州一花火大会」、秋から冬にかけては世界最大1,300万球が輝く「光の王国」、など、目を見張るものばかりだ。
他にも、自然に触れ合うアスレチックやデジタルアトラクション、歌劇、音楽、ショーなどが目白押し。「変なホテル」と名付けられた先進技術を導入したホテルなど興味が尽きない。
IR予定地
長崎IRはこのテーマパークの一区画、西側部分の約31haを予定地としている。とはいえ、HTBはIRの運営事業者として参加するわけではなく、自治体と事業者がIR整備を国に認可された場合にのみ不動産売買が行われる仕組みだ。長崎県で現在実施されている事業者公募には、カジノオーストリア、NIKI・チャウフーグループ、そしてオシドリ・インターナショナルが参画する米国トライバルカジノ事業者のモヒガン・ゲーミング・アンド・エンターテインメントを含むコンソーシアムの3候補者が残っており、最終的に決定される1者と不動産売買契約が結ばれる予定である。HTB側は、IR誘致のメリットについて「来場客が年間100万~200万人増加することが期待できる」と見込んでいる。
IR整備における問題点
不動産売買価格は205億円(別途消費税等、約11億円)。これには宿泊施設3棟及び美術館等建物61棟などが含まれており、前述のパレス・ハウステンボスもこの中に入っている。
海外の専門家はこの点についてIAGにこう話す。
「オランダ宮殿(パレス・ハウステンボス)とガーデンのレプリカをIRのマスタープラン内に残すのか、移動または取り壊せるのか。これらはいびつな形の施設で最も良い場所を占めている。もし、取り壊せたとしたら、見てわかるようにIRの主要施設は水上となってしまう」
パレス・ハウステンボスの北に位置する水路の部分をIRに活かすのか、埋めたてて活用するのか、ここら辺は事業者の提案、デザイン次第だろう。この他にも東西に伸びた広大な提案可能港湾区域が設定されているが、埋め立て費用や環境アセスなどを考慮すると、港湾エリアの活用はマリーナやフェリーターミナルなど限定的なものになる可能性は高いと思われる。
さらに同氏はHTBについて、海外での事例と比較し「IRがテ ーマパークに隣接するのも珍しい。現在、テーマパーク及びホテルは大成功を収めているとは言えない。皆が知っているように所有者が別でノーブランドのテーマパークがカジノの横で成功したことはなく、特に長崎の気候を考慮すると難しいのではないか」と話す。
不死鳥
HTBがIRと共に成功できるかは、これから訪れるアフターコロナ時代にかかっているだろう。構想段階で、あるいは防ぎきれない時代の波に何度も飲まれる不運に見舞われながらも、倒れては起き上がってきたHTBの姿を見てきた。ただ、今回は長丁場だ。まず当該区域がIRの区域認定を受け、そして整備される6~7年後まで生き残り、そこでようやくIR隣接地としての立地を得る。IRと共に花咲き、光輝くリゾートになれるか、HTBにとってはここからが正念場だ。