スポーツベッティングは、すでにオンラインスペースの大きな動きの1つとなっている。この流れに日本は追いつくのか、それとも鎖国のままなのか。
2020年に発刊された「スポーツビジネスの未来2021~2030」(日経BP)に、桜美林大学教授の小林至氏が寄稿している。そのひとつ「10年後の未来へのシナリオ」の中に、こんな興味深い一説がある。
〈2030年9月某日、既に3年連続のリーグ優勝を決めた福岡ソフトバンクホークスは本拠地福岡ペイペイドームに、韓国ソウル特別市を本拠とする斗山ベアーズを迎えて公式戦を行っている〉
試合は7回裏、ホークスの攻撃が終わり、7-2でベアーズがリード。典型的な消化試合、なのにファンは席を立とうとしない。それどころか、相手投手と打順オーダーを照らし合わせ、スマホ画面を熱心に眺めている。
なぜか?8回表裏に両軍が何点取るか。最終スコアは?もし、ホ ークスが大逆転となれば、100円が10万円となる可能性だってあるからだ。これがスポーツベッティングの醍醐味のひとつ。”常勝”福岡ソフトバンクホークスの元球団代表でもある小林至氏が言う。
「スポーツは今後の日本の成長産業のひとつです。眠れる資産を活用するにはスポーツベッティングしかないと思いますが、いつになりますか」
夢のような世界
もっとも、これは非現実的な話ではない。2019年5月。私は米国ネバダ州ラスベガスのホテル「シーザースパレス」に滞在。カジノフロアをのぞくと、そこには夢のような空間が広がっていた。全米各地の競馬場にMLB、テニスの試合が巨大スクリーンに映し出され、客はテーブルに座り、お酒でも飲みながらライブベッティングを楽しむことができるのだ。日本人のスポーツへの関心の高さ、アメリカ文化との密接な関係を考えると、米国式のスポーツベッティングは他のギャンブルよりも日本と相性がいいかもしれない。
しかも、その収益が教育や福祉、スポーツ振興に還元されることも何よりだろう。コロナ禍や度重なる災害復興へ向け、前途多難な日本の将来。税収という面でもスポーツベッティングの必要性を感じているのは私だけではないだろう。
そもそも、なぜ必要か
実際、プロ野球、Jリーグなどのスポーツイベントは入場料、放映権料、グッズ販売、スポンサー収入という「4本の柱」から成り立 っているが、昨年はコロナ禍で無観客を強いられ、多大な影響を受けた。一方、同じ無観客興行にもかかわらず、中央競馬やボートレースなどの公営ギャンブルは一瞬、開催中止に追い込まれた場面もあったが、影響はかすり傷程度。巣ごもり需要、密になるパチンコ・パチスロへの風当たりの強さ、オンラインベッティングが普及したことにより、例えば中央競馬の馬券の売り上げは2兆9,000億円と対前年比103.5%とアップしていた。
時代の流れも避けられそうにない。先ほどの小林氏はいつまでも鎖国状態ではいられないと警鐘を鳴らす。
「スポーツ界も好むと好まざるにかかわらず、DX(デジタル・トランスフォーメーション)は止められないでしょう。サイバー空間はボーダーレスであり、海洋という自然の要塞に守られ、世界の潮流と無関係でいられた我が国もそうはいかない。
野球でいえば、MLBのオンラインサービスをサブスクすれば、すべての試合中継をライブで、あるいはハイライトで楽しむことができる。消費者は世界中から商品を選べる時代。裏を返せば、日本のスポーツコンテンツを世界に売り出すチャンスでもある」
流れが一気に変わったのは2018年。それまでスポーツベッティングといえば、ブックメーカーが文化として根づいているイギリスが中心だったが、世界最大のスポーツ市場であるアメリカでスポ ーツベッティングが解禁になったことで、一気に花開いた。いまや、合法化されている州はペンシルバニア州、ニュージャージー州、インディアナ州、ネバダ州など21州に及び、他に17州は合法化の手続きを進めている。小林氏が続ける。
「にわかには信じられないかもしれませんが、ロシアの地下卓球リーグに、アメリカから年間500億円以上が賭けられている。ゴルフのUSPGAより売れています。ひとたびベッティングの対象となれば、映像・スタッツを含めて関心が飛躍的に高まり、コンテンツとしての価値も生じる。日本における中央競馬の人気を思い浮かべれば合点がいくでしょう」
日本版スポーツベッティングの芽ばえ
日本でも、その芽は出始めている。日本企業として初めてFSTA(米国ファンタジースポーツ協会)に加盟している「Neo
Sports」は2019年5月にプロバスケット「B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2018-19」で予想アプリを使った「FANTASY ONEonONE」を企画。同年7月には国内最古の歴史を誇る「第87回日本プロゴルフ選手権大会」を予想ゲームの対象にした。さらに昨年は読売新聞社と共催し、巨人戦リアル予想ゲーム「INNING KING」を実施してもいる。
一方、日本企業で唯一、英国でベッティングライセンスを取得している「ジャングルX社」はこの3月14日にスポーツ庁協力の下で「3×3.EXE PREMIER powered by INNOVATION LEAGUE」を開催。ファンとチームの双方向性を高めるファンタジースポーツで通常の観戦とは違う没入感や熱狂性が体験できたという。これら一連の試みは新たなライブ観戦を提案するもので、いわば近い将来への布石。国内のスポーツ産業に風穴を開けようとしている。
アカデミアの認識
スポーツベッティングの第一人者で、大商大の谷岡一郎学長(アミューズメント産業研究所所長)は「日本の法体制のスピードではいつになるのか。ただ、コロナ禍がひとつの転機になると思う。JRAなど公営競技はネット投票の充実で売り上げを伸ばしている。その一方で国内の違法賭博は増加し、摘発件数も増えているのが実情。賭博は制限するよりコントロールするというのは世界の流れ」と話す。
スポーツベッティングに賭けられている金額は世界で300兆円以上とも言われる。不法を加えると想像もつかないが、このポテンシャルを考えると、日本がほったらかしにするのはもったいない。