シーザーズはなぜ幾度となく見事なほどにアジアで失敗してきたのか、その理由は木曜午後5時(日本時間金曜午前7時)に行われた第4四半期決算説明会の書き起こし資料さえ見れば分かる。
説明会で、今後の韓国での統合型リゾート計画に関してシーザーズは具体的に現在どの地点にいるのかを聞かれたトム・リーグCEOは、「韓国はもうない。焼肉を食べるために売った…」と答えた。
以前エルドラド・リゾーツでCEOをつとめていたリーグ氏は、170億米ドル(約1兆8,107億円)をかけたシーザーズ大規模買収の舞台裏でこの動きを推進した人物で、ふたを開けてみれば、統合後に残ったシーザーズのCEOの座についていた。シーザーズという名前は、米国では誰もが知るものである一方で(少なくとも60年代、70年代、80年代はそうだった)、サンズ、ウィン、MGMといった企業と比べると、アジアでは基本的にはあまり知られていない。これら3つの米ブランドは、驚くほど大きな利益を生むマカオのゲーミングコンセッションを確保し、それが彼らの運命を変えた。マカオ市場は最終的にラスベガス・ストリップを追い越し、6倍以上の規模にまで成長した。シーザーズがマカオのライセンスを取り逃したのは2006年の事だった。当時CEOをつとめていたゲイリー・ラブマン氏がそのライセンスを「高すぎる」と言って断ったのだ。
2010年にラブマン氏は、その決定を「会社が下してきた中で最大の失敗だった」と説明した。それは50年以上の歴史を持つブランドについて言うにはかなりの意味合いを持つ言葉だ。
リーグ氏の「焼肉」発言はそう簡単に忘れられるものではなく、今後何年もアジアゲーミング業界の関係者たちの頭から離れないことだろう。良く言えば信じられないほどばか正直、悪く言えば明らかに人種差別主義者だ。
シーザーズは、買収による巨額の負債と新型コロナウイルス感染症の影響に苦しめられており、国内での財務状態に集中する必要があることを考えれば、韓国IRの持株売却という決定はまさに堅実と言えるものかもしれない。こういった状況であるにもかかわらず、シーザーズの韓国での計画断念は、また再びアジアで失敗したことを意味するところとなった。
もう一つ指摘しておきたいのは、シーザーズが日本のIRプロセスから撤退した最初の企業の1社だったという点だ。明らかに、アジアでこの業界に参加する方法について同社が基本的な理解さえできないことを考えると全く不思議ではない。
リーグ氏率いるシーザーズは、かなりアメリカ中心主義の企業になり始めているようで、リーグCEOは「そのうち、(カナダのオンタリオでのウィンザー運営契約が)当社の米国外での事業範囲になると思っておいてもらいたい」と発言している。
リーグ氏は追い打ちをかけるように、シーザーズの韓国撤退に関する発言に何気なく、「たしか(2020年)5月だったと思う」と付け加えた。この発言は、売却が実際行われたのは今年の1月末だという仁川経済自由区域当局からの直接の情報と矛盾する。リーグ氏が正しく、売却が実際5月であったのなら、事実から9カ月も経つ前のもう少し早い時期に市場に対して正式発表しておくべきであったのではないか。しかし、もし彼が間違っており、売却が1月であったのなら、リーグ氏の発言はCEOが自社内で起こっている重要な出来事に、または少なくとも古き良きアメリカの外での事柄に対してはノータッチであることを示している。
今日の決算報告の中で、リーグ氏が韓国に関して発した最後の言葉は「出ていくよ」だった。