「ラスベガス・サンズ」この名前は業界に関わる人なら誰もが知っているであろう。そして、業界関係者でなくとも、その名前は聞いたことがある人が多いはずだ。特にシンガポールにある、ラスベガス・サンズの代表的なIR(統合型リゾート)「マリーナベイ・サンズ」の名前と印象は群を抜いている。3棟の高層ホテルが並び、屋上にある1ヘクタールの空中庭園「サンズ・スカイパーク」で3棟のホテルは繋がっている。屋上には展望台や屋上プールがあり、世界一高い場所にあるプール(地上200m)としても有名である。
《サンズの焦点》
日本がIRの誘致を決定したことを受け、ラスベガス・サンズ(LVS)もまた、他のオペレーターと同様にライセンス獲得に向け精力的に動いている。横浜が一歩遅れた形で誘致参加を表明するやいなや、LVSはそれまでの焦点であった大阪から一転、横浜(及び、未だ曖昧な東京)に焦点を当てる方針にシフトした。首都圏である関東地方は大阪を中心とする関西地方に比べ、2倍近い人口を有し、経済規模もそれに伴うことを考えると、より大きなマーケットに参入するチャンスに賭けたということである。
《マリーナベイ・サンズと日本版IR》
シンガポールにあるLVSを象徴するIR「マリーナベイ・サンズ(MBS)」は、莫大な利益を上げ続けている。この中に有するカジノは、世界の中で見ても特に厳格な規制の中で運営されている。カジノ面積は敷地面積の3%以下、現地住民への上がり続ける入場税、ジャンケットの不使用、このような極限までの制約の中でLVSは成功を勝ち取り、その勝利を積み上げている。
このシンガポールの厳格な規制は、日本が目指しているIR像に非常に近く、しばしば「お手本にされている」と言われている。
11月7日に横浜シンポジアにて開催された「第1回[横浜]統合型リゾート産業展 開催発表・説明会」の中で、参加オペレーター3社の1社として登壇したジョージ・タナシェビッチ氏(ラスベガス・サンズ グローバル開発 マネージング・ダイレクター マリーナベイ・サンズ 代表執行役 兼 CEO)は同会の中で「(全体の敷地に対してカジノの面積割合が低いため)カジノがどこにあるのかわからない、すぐには見つからないという場合もある」「カジノはビジネスモデルとして非常に重要なものだが、(IR敷地内での)面積としては3〜4%以下である」と語った。
このジョージ・タナシェビッチ氏は、LVSのグローバル開発 マネージング・ダイレクター、そして、MBSの社長兼CEOであり、日本でのIRライセンス獲得のためのトップを務めている。
タナシェビッチ氏は当然、マリーナベイ・サンズで培われた勝利の方程式を日本にも当てはめようとしている。
ただ、LVSが狙う横浜は全てが順調なわけではない。その最たるものとして、根強い反対派の存在がある。同氏は「我々は毎日調査をしているが、一般市民の方はまだIR=カジノだと感じている方が多い印象を受ける。ギャンブル依存症を生むのではないかと懸念している。しかしそれは間違った見方であると、正しい情報を伝えるのが我々の責任である」と啓蒙活動の重要性を語る。
確かにマリーナベイ・サンズは世界のIRの中でも、非ゲーミング部門の収益比率は高い。約30%が非ゲーミング部門の収益であり、これは非常に高い割合である。
同氏は「ゲーミング部門の利益によって、継続的に再投資をしていくことができる。また、IRの中には非常に大切な施設だが赤字になるものもある。それをゲーミング部門が補う。この継続的な投資が現地経済をさらに活性化させる」と説明する。MBSでは毎年、多額の納税と企業支出も行われている。企業支出のうち91%は地元消費となっている。地元経済への恩恵波及効果は非常に大きい。
《横浜という街》
同氏は横浜について「もちろん観光地としては有名だが、その存在感としてはまだまだ大きく出来ると感じている」「それを市民の皆さんと共に正しい方向に持っていきたいと考えている。おそらく皆さんはその結果を見ていただけると思う。シンガポールでも我々はやってきた。その経験を活かして横浜の地に素晴らしいIRをつくりたい」と力強く述べた。
《競合への懸念を払拭》
街に新しい産業が出来るとなると、既存の産業は不安を覚えることもある。例えば、近場に巨大なスーパーマーケットが出来ると言われた地元商店街の様に。このような懸念に対し、同氏は「新しい産業を作り出すために、例えば新しいホテルを作るが、地元ホテルと競合することはない。我々がつくるホテルだけでは足りないからだ。そうなると、地元の既存のホテルにもお客様は流れると思う。これは実際シンガポールでも起こっている現象なので、横浜でもそうなると思う」そして「我々は雇用を奪うために横浜に来たいと思っているわけではない。むしろ雇用を生み出すために横浜に来たいと考えている」と丁寧に説明した。
《横浜IRのビジョン》
LVS、そしてタナシェビッチ氏が考える横浜IRのビジョンとは一体どういうものなのか。その核になる部分について同氏は「これまで見たことの無いようなエンターテイメントを創りたい。何度も足を運びたくなる場所に横浜をしたい」「MBSのような象徴的な建物をつくりたい。しかし、MBSや他のIRとは全く違うスタイルの建物をつくるつもりだ。既存のインフラを補完、融合するかたちでユニークなものにしたい。そのためには日本のパートナーと組み、地元で何が求められているのか、きちんと理解した上でビジネスを展開したい」と、理念を強調した構想を披露し、「歓迎され、日本の企業と共に成長を楽しめるような存在になりたい」と締めくくった。
ラスベガス・サンズに一貫しているのは、地元の企業や市民に歓迎され、共に経済的成長、活性化を実現したいという意識だ。そのための第一歩として、市民の理解を促す啓蒙活動を最優先に考えている。サンズはIR誘致に未だ曖昧な姿勢を取る日本の中心地「東京」も視野に入れている。横浜、そして東京。サンズの戦いはこれからが佳境に入る。