日本版IRのフェーズ1で、スポーツベッティングが採用される可能性は低い。では、なぜ早い段階から、これがIRのガイドラインから外されたのか。その矛盾と今後の可能性について考察する。
現地時間2月3日、アメリカ・アトランタで行われた第53回スーパーボウルで、ニューイングランド・ペイトリオッツが通算6度目の優勝を飾った。
スコアは13-3。結果的には-2.5のフェイバリット(2.5点差で優勢の予想)だったペイトリオッツの快勝だったが、第3Qでロサンゼルス・ラムズが同点に追いつき、第4Qの中盤までは3-3という稀にみるロースコアゲーム。どっちに転んでもおかしくない展開だっただけに、この試合に賭けていた人は、相当、興奮したに違いない。
とは言っても、これはラスベガスの主要ホテルにあるスポーツブック(スポーツ賭博)か、イギリスのブックメーカーなどで賭けることのできる環境にある人の話。今の日本で公式のスポーツベッティングは認められていない。
多くの日本メディアが、昨年行われたサッカーW杯の日本戦や、テニス全豪オープンの大坂なおみ選手の決勝戦勝敗予想に、英ブックメーカーのオッズ(賭け率)を紹介して興味を深めている時代だ。競馬の国際レースに参戦する日本馬の勝算を、現地オッズで解説するスポーツ新聞も多い。
スポーツベッティングは結構な市民権を得ている印象だが、まだまだ欧米とは歴史が違う。3.5倍というオッズの表示(Decimal形式)にメディアは慣れていても、5/2というFractional形式や、+250とAmerican形式で外信部がニュースを受けても、これをすぐに換算できる人は少ない。
政府のIR整備推進会議は2017年7月に公表した「取りまとめ」の段階で、カジノ行為の範囲(種類及び方法)を「事業者がカジノ行為の実施を管理し公正性を確保することができるものに限定すべき。例えば、単純な顧客同士の賭けやスポーツベッティング等他者が実施する競技(勝負)を賭けの対象とすることは不可」と、明記している。
現在までこの文言に変更はなく、このままでは日本版IRのフェーズ1に、スポーツベッティングが採用される可能性は低い。
しかし、現実にはすでに日本でも、『toto』と呼ばれるサッカーの試合を対象とした〝スポーツくじ〟が発売されている。これは「他者が実施する競技(勝負)を賭けの対象にしている」わけで、その対象もJリーグにとどまらず、W杯2018でも広く発売された。さらに日本のオフシーズンには『海外版toto』が、ドイツのブンデスリーガやイングランド・プレミアリーグの試合を賭けの対象に発売されている。これは他国で行われる試合でも、「公正性は確保できる」と考えてのものだろう。
では、なぜ早い段階から、スポーツベッティング全体が日本版カジノで楽しめる賭け事から外されたのか?
まず、totoは「スポーツ振興投票の実施等に関する法律」に基づいて発売される〝予想くじ〟であり、ギャンブルではない、という解釈がある。そして、その収益はスポーツの振興のために使われるので、カジノ事業者が粗収益(GGR)の30%を納める国庫納付金とは性格が異なる。
もう一つ、というより最大のポイントは、現行のtotoのペイアウト率( 払戻し率)が50%前後と低いことだ。約90%が払戻しに充てられるスポーツブックが国内に設置されれば、到底勝負にならない。スポーツベッティングを楽しみながら、わが国のスポーツ振興にも少しは貢献したい立場からすれば、totoが歩み寄って払戻し率を上げてその対象種目も増やし、いずれはスポーツブックと共存していく、というのが理想なのだが、果たして…