朝鮮半島初の統合型リゾートは「先行不利」と 「 外国人専用カジノの制限 」を克服するためにアート、空港そして日本との関係を頼りにする。
ほぼすべての人が 「 統合型リゾートが韓国のカジノの未来である」ということには同意するが、それでも外国人専用カジノで、10億ドルというコストが人々を躊躇させる。2年前の韓国に対する中国人集団旅行ボイコットにもかかわらずオープンした1.54兆韓国ウォン(13.7億米ドル)のパラダイスシティはいまだ工事中で、他の仁川IRから支援を受けるには少なくともあと2年は必要だ。
モルガンスタンレーのアナリスト、ジェイ・リー氏は、パラダイスシテ ィが筆頭株主になっているパラダイスグループが危機を脱するのを同社が見ているにもかかわらず、「先行不利」に直面している、と書いている。その意見が全員に共通しているわけではないが、ゲーミング関係者の大半は、IRがソウル・仁川エリアを主要なゲーミング集客地として築き上げることを願っている。
パラダイスシティのパク・ピョンヨン社長兼CEOは、パラダイスのフィリップ・チュン会長との1990年末のラスベガス旅行、そしてその旅行がIRコンセプトに対する彼らの目を開かせたことを思い出しながら「カジノビジネスは純粋なギャンブルから、より家族向けの複合施設へと変わらなければならない。それがIRの存在意義。また、我々は、カジノビジネスはIRであるべきで、ギャンブル中心ではなく、より観光客中心であるべきだと考えている。より家族が楽しめる場所であるべきだ」と述べている。
パラダイスが運営し、日本のセガサミーとの55-45ジョイントベンチ ャーであるパラダイスシティはこれらの項目をクリアしている。2017年4月にオープンした自称「アートテイメントリゾート」は、711の客室を持つ5つ星のパラダイスホテル、韓国最大のホテル会議スペース、ボウリング場やビデオゲームが揃ったファミリーラウンジ「サファリパーク」、屋内・屋外プール、スパ、そして日本料理、イタリアン、中華料理レストラン、カフェ、生バンドラウンジを有する。このIRは、ダミアン・ハースト、アニッシュ・カプーア、草間彌生そして李庸白などの有名アーティストの作品を20点以上も展示している。
お手軽なスクイーズ
パラダイスシティのメインフロアでは、プレイヤーは最低10,000ウォン(8.88米ドル)の掛け金でバカラカードをスクイーズでき、ルーレットでは2,500ウォンからベットすることができる。他には、バカラと同じくらい人気のあるブラックジャック、シックボー(大小)、テキサス・ホールデムを含むポーカーゲームなどがある。
韓国最大の外国人専用カジノは広さ15,529㎡(167,092ft²)で、154のテーブル、281のスロットマシンそして62のETG端末を有している。VIPルームにはスカイカジノが含まれ、20,000ドルのバイインとミニマムベット5,000ドルの3つのVVIPエリアを持つ。マカオトップのジャンケップロモーター、サンシティー・グループは、パラダイスシティの部屋を利用しており、コミッションは1.6%を超えると言われている。
VIPプレイは、パラダイスシティの一年間のゲーミングオペレーションのテーブル総収益2.29兆ウォンの86%を構成しているとパラダイスは報告している。ゲーミングの純利益は2.5億ウォンに達した。これらの数字は、ソウル北部にあるパラダイス・ウォーカーヒルのホテルの地下に借りている3,800㎡に詰め込まれた100のテーブル、100のスロットそして30の電子テーブルゲーミング端末での2.48兆ウォンのテーブル総収益と2.95億ウォンの純利益の後に続いている。パラダイスシティは、昨年、テーブル総収益で68%増となり、今年はウォーカーヒルを追い抜くことが予想される。
K-EUROPE?
9月にオープンしたパラダイスシティの1~2フェーズは、アートテーマを強化しながらアトラクションを追加している。7,000㎡(75,000ft²)の広さを誇る東北アジア最大のナイトクラブ「Chroma」では韓国と世界のDJの2ステージと、年間を通して利用できるカバナとジャグジー付きの屋上プールデッキが楽しめる。シメルは「ヨーロピアンアートスパ」と伝統的な韓国のチムジルバンとを掛け合わせ、多種なプールやサウナ、そしてテーマごとのリラクゼーションスペースを提供している。屋内テ ーマパーク「ワンダーボックス」は4月までに開園を予定している。
ブティックホテルのアートパラディソは、フィレンツェにあるシニョリ ーア広場をモデルに作られた広々とした天窓付きの空間「ザ・プラザ」とつながっている。
パラダイスによると「ヨーロッパのブティックホテルにインスパイアされたライフスタイルデザインホテル」だというアートパラディソには58のスイート、そして近代的スタイルの高級韓国料理レストランと韓国食材を使用した「アムステルダムスタイル」のガストロパブがある。パラダイスのアート空間の常設展示には、ハースト、アメリカのジェフ・クーンズ、そして韓国のリー・ベやキム・ホデクの作品が並ぶ。
ザ・プラザの20の小売店や飲食店では多岐にわたる韓国や世界の商品を提供するとともに免税店もあり、すでに90%が埋まっている。「 訪問客は増えているが、予想を下回っている」とパラダイスのインベスター・リレーションズ部門部長のシム・ヘジョン氏は言う。「これまでのところ、パラダイスシティの1~2フェーズのカジノオペレーションへの影響と相乗効果は限られている」2019年下半期には、より大きな利益がうまれるであろうとシム氏は予想している。
日本人へのシフト
ゆっくりとした成長にもかかわらず、モルガンスタンレーソウル支社のジェイ・リー氏は、パラダイスシティが設備投資を完了させることで、2013年以降で初めてパラダイスのキャッシュフローがプラスに転じると予想する。さらに、モルガンスタンレー香港支社の専務取締役、プラビーン・チャードハリ氏と共同で書かれた報告書の中で、パラダイスがライバルであるグランド・コリア・レジャー(GKL)よりも上手く中国人VIPから日本やその他の客にシフトしており、パラダイスシティに関しては市場が回復した時に中国人VIPを呼び込める可能性が高いと述べている。
2005年に設立され、政府の韓国観光公社によって管理されているGKLはソウルとプサンという2つの主要地域でセブンラックカジノを運営する。GKLは外国人カジノ市場で地の利と、中国人客をより早く取り込むことで10年前にパラダイスを追い抜いたが、その後パラダイスに追い付かれた。JPモルガンの予測によると、パラダイスの2018年ゲーミング収益はGKLの4930億ウォンよりも29%多い6380億ウォンで、その差は広がる可能性が高い。
GKLのソウルのカジノフロアはさらに賑わいを見せているが、モルガンスタンレーは上昇傾向は限られると見ている。その理由には、今後変わる可能性はあるが、GKLがジャンケット業者たちを遠ざけていること、そして当初仁川のライセンスに興味を見せた後はIR建設の計画をしていないことが挙げられる。
パラダイスシティは現地にホテル客室を持っているため、同社の方がプレミアムプレイヤーたちにより手厚いサービスを提供することができる。週末の稼働率は70%にまで改善したといい、それは韓国で滞在型バカンスを意味する「ホカンス」によって後押しされている。しかし国内のホカンス市場はゲーミング収益の助けにはならない。
仁川の永宗島自由経済区域は外国人用カジノモデルに適合する。というのも、その場所は、K-PopやK-カルチャーでますます人気が高まっているソウルへの入り口、仁川国際空港のすぐ目の前にあるからだ。昨年1月に第二ターミナルが完成したことで、仁川は2017年に6200万人で19位にり、後68万人以上が外国人用カジノを利用した。上海、北京そして東京が全て飛行時間2時間圏内にあり、その全てがマカオよりも仁川に近い。そして世界人口の4分の1が3時間半の圏内に住んでいる。ソウルまでは特急列車で43分だ。
プルコギはどこに?
全員がパラダイスシティや仁川に楽観的であるわけではない。報告書の中で、JPモルガンのアナリスト、DS・キム氏は、フェース1-2の資本コスト5300億ウォン、年間営業経費850億ウォンそして減価償却費1100億ウォンはパラダイスが生み出す収益に対して「はるかに高すぎる」と強く主張する。
アートパラディソの最高級ルームがゲーミングエリアから最も遠い場所にあること、時計や宝石店と言ったカジノでの販売の主力商品の欠如、そしてパラダイスが強調すると約束した「韓国らしさ」の欠如に対して疑問が挙がってきている。パラダイスシティが韓国焼き肉レストランをオープンするまでには18か月がかかった。カジノバーにある巨大スクリ ーンに時折映し出されるミュージックビデオを除いては、そこにアジアだけでなく世界中に影響を与える韓国文化の波「韓流」の気配はない。
「1度目か2度目の訪問ではこう言うかもしれない、『すごく豪華だ。ラスベガスやマカオみたい』と。だが、何度も訪問を繰り返すうちに、多くの場所で韓国を感じるようになるだろう」そう、パク氏は言う。
仁川のIRにとっての成功は、非常に重要な意味を持つ「マス」に焦点を当てることに大きくかかっているかもしれない。シーザーズ・コリアは2017年9月に8500億ウォンのツインタワーの建設を開始し、空港から車で15分のミダンシティで2021年第2四半期中のオープンを予定している。パラダイスシティとは空港の反対端にあるモヒガン・ゲーミングのインスパイア・エンターテイメント・リゾートはパラマウント・ピクチャーズのテーマパークと15,000席のアリーナを約束しており、同施設にエンターテインメントを提供するためのライブ・ネーションとのアメリカでのパートナーシップを拡大している。モヒガンは2022年のオープンのために5月の建設開始を目指している。シーザーズの国際開発部代表のスティーブ・タイト氏は、「戦いは望むところだ」と気炎をあげる。
「韓国の統合型リゾート市場は現時点では定義されていない」とインスパイアのインテリアデザインナー兼建築コンサルタントで、スティ ールマン・パートナーズのポール・スティールマンCEOは語る。「この地方で競争力のある統合型リゾートが必要だ。韓国はラスベガスの精神で設計・建設される一連のリゾートの建設に向けて最初の一歩を踏み出しただけだ。その時が来れば、市場には再度投資が行われるだろう。 」
仁川は完璧な場所
パラダイスシティの事業者であるパラダイス・セガサミーの代表取締役社長兼CEOであり、パラダイスグループの社長でもあるパク・ピョンヨン氏が、Inside Asian Gamingの総合編集長のムハンマド・コーエンと対談し、朝鮮半島初の統合型リゾートと韓国のカジノ産業が直面する重要課題について話し合った。ムハンマド・
コーエン(MC): パラダイスは、済州島、仁川、釜山そしてソウルにカジノを持っています。どうして仁川にIRを建てるのでしょうか?
パク・ピョンヨン(PYP): 中国と日本に関して言うと、実際仁川が完璧な場所なのです。空港から5分、徒歩で10分、車では2分。
以前は(空港の)グランド・ハイアットにカジノがありました。お客さんは5時間ギャンブルを楽しんだ。その後「さぁ他に何をしようか?」と考えるのです。 でもここには何もありません。ソウルまで行かなければならないのです。IRがあれば全てが揃います。コンサート、K-Pop、レストラン、ショッピングモール、免税店。
人々が韓国を訪れる目的は2つあります。韓国文化を楽しみ、景色を見たい人達。その目的ならソウルかまた別の場所に行きます。もしギ ャンブルと何か近代的なものを楽しみたいのならここで完結します。他の場所に行く必要がありません。
MC: シーザーズとインスパイアのオープンを懸念していますか?
PYP: 実際、スタッフの多くがシーザーズを懸念しています。しかし、これをハードルとしては考えたことはありませんでした。なぜなら韓国のIRはより韓国スタイルであるべきだからです。そうでなければ、人々はマカオやシンガポールに行きます。ラスベガススタイルをやっても、シンガポールやマカオより優位に立てる点がないのです。だから我々はより韓国スタイルにフォーカスしています。
MC: IRが増えるとゲーミングのパイが大きくなると予想しますか?
PYP: はい。パイは大きくなるはずです。セブンラックが2005年にオープンした時にそれを経験しました。1,2年の間は非常に大きな影響を受けましたが、3,4年後にはパイがかなり大きくなりました。
MC: パラダイスは中国人訪問客の減少にどう対応しましたか?
PYP: (中国の韓国に対する集団旅行の制限)以前は、中国人がマーケ ット全体の50%以上を占めていましたが、その時代は過ぎたと思います。 今は新しいアジアのマーケットです。我々はタイ、モンゴル、マレーシア、台湾、その他たくさんの国にフォーカスしています。
MC: そちらの数字では日本からの訪問客が増えています。
PYP:はい。2010年以前、韓国では日本が最大のマーケットでした。2010から2011年頃から、(日本と中国が)半々になりました。その後、おそらく2015から2016年に中国マーケットが日本の倍以上になりました。しかし今は日本経済が回復していると思います。
また、パラダイスシティは(日本の)セガサミーとのジョイントベンチャ ーです。我々が55%、セガサミーが45%保有しています。セガサミーもゲ ーミング事業を行っています。カジノ事業ではありませんが、非常に似ています。彼らはマーケティングを非常に得意としており、そこで市場支配力を持っています。たくさん助けてもらい、良い相乗効果があります。 また、セガサミーは日本でカジノをオープンしようとしています。
MC: パラダイスは日本でのセガサミーとのジョイントベンチャーを考えていますか?
PYP: はい。これは確定事項ではなく、ある種願望のようなものです。なので、まだ確約はできません。
MC: 日本のIRは韓国のカジノにどのような影響を与えるでしょうか?
PYP: 日本のハイローラーたちは韓国に来ないかもしれないと考える人もいます。しかし、日本のハイローラーは自分たちのプレイに大変慎重である可能性があります。彼らは地元のカジノには行かないと思います。当社の日本人VIPは韓国に来るでしょう。
MC:江原ランドの独占権が期限切れを迎える2025年以降、(韓国人がプレイできる)オープンカジノを予想していますか?
PYP: それは江原ランドの状況によります。そして日本にもよります。日本がカジノをオープンさせれば、焦点は日本に移るでしょう。韓国のハイローラーたちは日本へ行く(かもしれない)、そして韓国政府は非常に腹を立てる(かもしれない)。
MC:オープンカジノとなれば、パラダイスはその準備ができていますか?
PYP: それは言えません。準備できていると言ってしまえば、人々は我々がそのために動いている(ロビー活動をしている)と考えます。私は韓国カジノ業観光協会の会長ですので、全てのカジノを代表しています。ですので、私は中立です。
MC: オープンカジノは業界にとってプラスになるでしょうか?
PYP: はい、確実に業界にとってプラスでしょう。でも国にとってプラスかどうかはわかりません。