IAGがマカオに拠点を置くフレグランス販売会社Asiul Tradingの取締役、デイブ・スミス氏にインタビューを行い、彼のキャリアおよび今日のホテルやカジノでフレグランスが果たす重要な役割についてお話を伺った。
オスカー・ギハーロ:本日はありがとうございます。生い立ちについて教えていただけますか?
デイブ・スミス: イギリスのスコットランドで育ちました。エジンバラのすぐそばのリンリスゴーという小さな町です。うちはどこにでもあるような普通の家庭で、母は教師、父は専門的な板紙を取り扱う業界で働いていました。母方の親戚がインヴァネスに近いハイランド地方に農園を持っていましたので、学校の長期休みには大抵トラクターや四輪バイクで遊んでいました。昔は本当に楽しんでいました。
OG:当時、具体的に進路について考えていましたか?
DS: 農園での楽しい休みの思い出から、農家になることを望んでいました。しかしながら、成長するにつれて、農業はあまり儲からないこと、そして田舎は退屈だということに気付いて、その計画は没になりました。
父は、仕事の関係で色々なところに出張に行っていました。エジプト、南アフリカそしてナイジェリア等の場所で工場を訪れる際には武装した警備員がついていたことや、中国での宴会で出された奇妙な食べ物、そしてアメリカの真ん中でスーパーボールを見たことなど、 私は出張の話を聞いて目を輝かせていました。だから、10代後半までにはオフィスにずっといるというわけではない営業の仕事が、リストの一番上にきていました。
OG:御社の事業と、ご自身の役割について教えていただけますか?
DS: Asiulは家族が経営する会社です。1993年に祖父母であるイアンとマリサがマカオで創業しました。「Asiul」という社名は、祖母のミドルネームである「Luisa」を逆から読んだものです。そのコンセプトができたのは、祖母であるマリサがパリで訓練を受けたプロのアロマセラピストで、祖父はロンドンでちょっとした起業家であったことに関係しており、彼らが5つ星ホテルやスパ向けの高級エッセンシャルオイル製品を作るというアイデアを思いついたのです。
マリサはスペイン生まれでポルトガル語を話します。メインのタ ーゲット市場がその時に世界のホテルが集まっていた香港だったために、マカオはぴったりの拠点でした。
彼らは何年もかけて事業を拡大させ、ナチュラルスパトリートメント、エッセンシャルオイルブレンドそしてハウスキーピング製品などが加わっていきました。当社の製品はオリジナル性が高く、かなり人気がありましたので、世界中を移動するホテルスタッフが、当社の製品シリーズを定期的に持って行ってくれていました。その結果、今では世界中に顧客がいます。
私自身は家業を手伝うために2007年にマカオへとやってきました。5年ほど前に、マカオの現地企業、Green Breeze Ambientと提携したことで、芳香事業の技術面を成長させ、カジノフロア、ホテルロビー、ショッピングセンターやクルーズ船といった広いエリアから、ホテル客室、事務所スペースそしてオーダーメイドの小売アイテムといった規模の小さいリクエストにまで、香りのソリューションを提供できるようになりました。
OG:それがそもそもマカオにやってきたきっかけですか?
DS: 休みの時の訪問先としてマカオはいつも大のお気に入りでした。そしてここにいる間は、時々祖父が顧客を訪問したり、工場や倉庫を見たりするのについて行っていました。そこから単純に家業で働きたいと思うようになりました。私はかなり意欲的なタイプで、マカオという成長を続ける都市だけでなく、業界全体に大きな可能性を見出しました。
でもただ道に出るということは許されていませんでした。マリサは非常に頑固で、エッセンシャルオイル、スパ、そしてフレグランスの世界を本当に理解するまで顧客に会うことはありませんでした。ですので何カ月も、研修漬けで製品を本当に理解しようと努力していました。我々は、全てのオイルを原産国から、そして生産者から直接仕入れていますので、その原料がどこから来たのが正確に把握しています。例えば、シトラス系オイルは全て南アフリカから、ラベンダーはスぺインから、そしてユーカリはオーストラリアから直接仕入れていました。
OG:統合型リゾートのような大規模事業にコーポレート・セントが追加する価値というのはどういうものでしょうか?
DS:建物に入る際の香りは、顧客体験にとって非常に重要です。人間の五感の中で、最初に脳に働き掛けるのは嗅覚です。ですので、施設に何十億かけたとしても、顧客が一歩足を踏み入れた時にカビ臭かったりムッとするような臭いがすれば、客の脳はすぐにその場所を汚い所、または低レベルな場所だと考えます。
逆に、それほど魅力的ではないかもしれないエリアを素敵な気分の上がる香りではるかに心地よい場所にすることもできます。
また、香りというのは人間の脳の中に簡単に記録され、思い出を呼び起こします。例えばもし「シグネチャー(特徴的な)・セント( 香り)」を使う複数の施設やリゾートがあれば、お客さんはすぐにどこにいるか分かります。これはその環境でお客さんがより快適に感じるのに役立ち、滞在時間が長くなります。
さらなる収益源にさえなり得ます。実は想像よりもたくさんの宿泊客がロビーの芳香剤をどこで購入できるか聞かれるんですよ!台湾で長く取引しているあるクライアントは実際、持ち帰り用のフレグランスを販売するショップをロビーにオープンさせました。全ての共有スペースでその芳香剤を用いた後、あまりに多くのゲストがチェックアウト時に購入を希望したからです。
OG:年月を重ねるにつれてマカオに対する感じ方はどのように変化してきましたか?
DS: この質問をマリサにすれば、全く違う答えが返ってくることでし ょう。祖母はいつも、サンマロに車を停めて、郵便局に行ったり、丘の上のブエノビスタで行われる夜のイベントに行ったりするのを恋しがっています。私にとっては、文字通り毎月、新しいワクワクする変化を見るのが大好きです。新しい場所、レストラン、公共サービスなど。私にとっては、マカオは正しい方向に進んでおり、住むにも拠点にするにも非常に刺激的な場所です。
OG:仕事で最もやりがいを感じる部分は?
DS: これは簡単な質問です。何年とまで言わないまでも、シグネチ ャー・セントを開発するには、数えきれないほどの会議、調香師による調整そしてトライアルなどを行うために、最終的に承認されるまで数カ月はかかります。しかし、自分でクライアントのロビーやゲ ーミングフロアに足を踏み入れてその香りを体験し、そして他の人がそうしているのを見た時、本当に笑顔になれます。
OG:仕事時間の以外は何をしてリラックスしていますか?
DS: 典型的なスコットランド人として、週末にはビールを飲んでスポーツの生中継を見るのが何よりも好きです。私はおそらくマカオで最大(かつ多分唯一)のエバートンファンでしょうね。この7年間はAFLチーム「マカオ・ライトニング」の会長も務めています。これは人生を変えるような経験になっています。多くの素晴らしい一生の友人に出会い、トーナメントや試合でアジア中を移動しています。